電車の車窓から見えた一瞬の景色が、撮影地を決めた
JR四国の電車で高松市へ向かう通勤途中、私は毎日ぼんやりと車窓を眺めています。
春のある日、満開の桜が突然目に飛び込んできました。場所は、端岡駅と鬼無駅のほぼ中間にある 新居宮池(にいのみやいけ) の周辺。
瀬戸内地方では比較的静かな池のまわりに、風にゆれる薄桃色の桜が並び、その光景がなぜか忘れられなくなりました。
「これは、撮りに行かなければ」
そう思った私は、晴れた日にさっそくロケハンへ。
新居宮池は近くに住宅地がありながらも静かな場所で、池の水面に映る桜の姿が美しく、歩きながら録るアンビエント動画にも最適だと感じました。ただ、桜はすでに葉桜へ移行し始めており、撮影できるのはあと数日だろう、と直感しました。
雨予報の日を狙って訪れたら、まさかの“春の嵐”に
Setouchi Ambienceの撮影テーマである「雨」。
桜と雨の組み合わせは非常に相性がよく、柔らかい雨音と桜のしっとりした雰囲気は、視覚的にも音的にも豊かな作品になります。
そこで私は、Windyや気象アプリをチェックし、雨予報の日を狙って再訪しました。
しかしその日は、予報を大きく裏切る結果になりました。
・急に降り始める大粒の雨
・池の水面を揺らす突風
・そして、瀬戸内地方では珍しい雷鳴まで…
本来なら桜の木のそばで撮影したかったのですが、あまりにも風雨が激しいため、近くの休憩所から離れることができませんでした。
傘を差しても身体が持っていかれそうな強風で、機材を守ることが優先事項になったほどです。
「傘以外の雨音を録れるチャンス」
通常、私は傘に落ちる雨音を活用したくて、雨の中を歩きながら録るスタイルを取っています。
しかしこの日は、休憩所の屋根、柱、地面に跳ね返る雨音が複雑に混ざり合い、 “自然のマルチレイヤー雨音” のように響いていました。
「無理に外へ出なくても、この場所でしか録れない音がある」
そう気づいた私は、あえて外へ飛び出さず、休憩所に待機したまま録音することにしました。
池の向こうで揺れる桜は、激しい雨に打たれながらも美しさを保っていて、その姿と音のコントラストがとても印象的でした。
こうして生まれた“春の嵐と桜”の映像
そんな偶然と判断の積み重ねで撮影した映像が、今回紹介する動画です。
本来思い描いていた“しっとり雨の桜”とは大きく異なりましたが、激しい瀬戸内の春の嵐という、ある意味で貴重な一面を記録できたと思います。
ぜひ、耳で、そして目で、春の嵐が生んだ一瞬の世界を味わっていただければ嬉しいです。

