香川県は、日本の中でもとくに雨が少ない地域として知られています。年間降水量は全国平均の半分ほどで、四国山地に遮られるため、大雨が降っても県内までは届かないことが多いのです。
そのため、香川県には全国一の数を誇る溜池(ためいけ)が存在します。これは、度重なる水不足に悩まされた先人たちが、知恵と努力で築き上げた“生活の知恵の遺産”です。
空海と満濃池に込められた祈り
香川県の中央部に位置する「満濃池(まんのういけ)」は、日本最大級の灌漑用ため池です。その歴史は古く、8世紀にまで遡ります。たびたび決壊を繰り返していたこの池を、修築したのが弘法大師・空海でした。
空海は当時、唐から帰国したばかりの青年僧で、最新の土木技術を持ち帰っていました。彼の設計と指揮のもと、満濃池は817年に再建され、以来1,200年以上にわたり香川県の農業を支え続けています。今も春には「ため池まつり」が行われ、地元の人々がその偉業を語り継いでいます。
乾いた土地で“雨音”を追いかける
そんな雨の少ない土地で、私は“雨音”をテーマにしたYouTubeチャンネル「Setouchi Ambience」を運営しています。香川で暮らしていると、雨の日はとても貴重な撮影チャンス。だからこそ、一滴の音にも敏感になります。
他の地域のように激しい雨に恵まれることはほとんどありません。だから私は、小雨でも豊かな音が生まれる場所を探すようになりました。今回の動画では、あえて狭い路地を歩きながら録音しました。トタン屋根、アスファルト、石畳、排水溝――素材の違いがそれぞれ異なる音を奏で、まるで小さなオーケストラのように響きます。
小さな雨が生む“大きな世界”
たとえ小雨でも、マイクを通して聴くとその音は驚くほど立体的です。トタン屋根に落ちる雨粒のリズム、排水管を伝って流れる水の音。人工物と自然の境界に生まれる音は、日常の中に潜む“静かな美”を教えてくれます。
香川の雨は短く、そして静かです。しかし、その静けさの中には、人と自然が共に生きてきた時間の層が感じられます。ぜひ一度、映像とともにその音に耳を傾けてみてください。ほんの数分の雨音が、きっと心を整えてくれるはずです。

