はじめに
前回の記事の最後で、パンデミックの気配が忍び寄る中、私がバンコクの企業へ転職することを決めた経緯を書きますと予告しました。
ただ今振り返ると、その決断の裏には、はっきりとした「迷い」だけでなく、自分を支え続けていた“静かな違和感”と“ほんのわずかな希望”もありました。
今回は、その内側の揺らぎを言葉にしてみようと思います。
人間関係に疲れた心
転職を考えた一番の理由は、人間関係の疲れでした。
マレーシアの職場は国籍も文化も違う仲間が集まり、刺激的で楽しい環境でした。しかし、日本人同僚との関係では、どこか息苦しさが残り続けていました。
管理職に就いたにもかかわらず給与は大きく上がらず、「この働き方を続けても、未来は変わらないかもしれない」──そんな焦りが、静かに胸の奥で広がっていきました。
トレーナーから現場へ戻った理由
ストレスが蓄積し、トレーナーとしてのモチベーションが下がっていた頃、私は思い切って上司に「現場へ戻りたい」と相談しました。
上司はマレー系インド人で、良くも悪くもストレートな人でした。私の話を真剣に聞いたうえで、降格という形で現場に戻ることを了承してくれました。
結果として、私はずいぶん救われました。
ただひたすらケースを処理し、メールで返信するだけの日々。それは大きな成果も承認もありませんが、穏やかでした。
周囲の同僚は「Nkamuraさん、どうしたんだろう」と感じていたかもしれません。でも、その静かな時間は、次の一歩を考えるために必要だったのだと思います。
転職活動を始めた日
転職活動のきっかけは、「このままではいけない」という、小さな危機感でした。
東南アジアには日系の求人サイトがいくつもあり、私は「カモメアジア転職」と「海外JOB」を中心に情報を集めました。
応募を繰り返しながら、各国の企業とオンライン面接をする日々。その中には運良く書類が通ったものの辞退したもの、面接で落ちたもの、連絡が途絶えたものもあります。
記憶に残っている応募先は以下の通りです:
- マレーシア国内の日系コールセンター
書類通過→迷いが生まれ辞退 - マレーシア国内の日系企業(フォトグラファー職・シンガポール担当)
書類通過→オンライン面接で不採用 - 中国・北京のリクルートグループ企業
書類通過→オンライン面接で不採用 - フィリピン・タガイタイの家具デザイン企業
応募→音信不通 - タイ・バンコクの日系ECサイト運営会社
書類通過→オンライン面接1回で採用決定
こうして振り返ると、「うまくいかなかった経験」の積み重ねが、最後の一社をより現実的に、そしてありがたいものに感じさせてくれたのだと分かります。
バンコクに決めた理由
最終的にバンコクに行くと決めた理由は、非常にシンプルでした。
「人生は一度きり」という思い
必要としてくれる場所があるなら、そこへ行ってみよう。そう思いました。
採用がマネージャー職だったこと
前任者の退職による欠員補充とはいえ、必要とされるのは嬉しいものでした。
給与が当時のマレーシアの2倍近くあったこと
生活の安定が見えるだけで、心の負担は大きく減るものです。
オンライン面接で語ったこと
面接では「マレーシアでの失敗と、そこから学んだこと」を正直に話しました。
・まず相手の価値観を理解すること
・“共感”がチームを強くすること
これは理想論ではなく、自分が痛みを通して知った現実でした。相手もその誠実さを受け止めてくれたように思います。
迷いはあったのか?
正直に言えば、迷いはほとんどありませんでした。
すでに一度海外就職を経験していたので、「また同じ道を辿るだけだ」と感じていたのです。
マレーシアでの最初の失敗──住む場所探しに苦労したこと──も、最後は自分の力で乗り越えました。その経験は私にとって、小さな「自己肯定感の源」になっていました。
そしてYouTubeの存在も大きかった。
バンコクの生活はどんな感じなのか、TJ Channel が丁寧に教えてくれました。
採用が決まってからは、ほとんど毎日TJ Channelばかり観ていた記憶があります。
採用通知を受け取った日のこと
採用が決まった瞬間の気持ちは、今でもはっきり覚えています。
「え、本当に?こんなに高い給与を私がもらっていいのか?」
その驚きと興奮が混ざった感覚。
一気に視界が開け、バンコクのコンドミニアムを検索する時間がまるで“未来の予習”のように感じられました。
そして、パンデミックの影が迫る
転職活動を始めたのは12月。採用通知を受け取ったのも同じ月でした。
ところが、翌年の1月からは東南アジアでも新型コロナのニュースが流れ始めます。
最初に聞いたのは、シンガポールの感染者の報道でした。
「この世界は、これからどうなるのだろう」
そんな不安を抱えながらも、私はバンコクへ向かう準備を進めていました。
次回予告:パンデミックの中で決断した理由
次回のVol.10では、
「どうやってパンデミックの中、マレーシアからタイ王国へ転職を成し遂げたのか」
その裏側を詳しく書いていきたいと思います。


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